オープニングイベント第二部~作家・三浦しをんさん×東京農大教授・宮林茂幸~

オープニングイベント、第一部の宮林教授による「都市と山のつながりを再生しよう」ご覧頂き、ありがとうございました。

前回のブログで、竹炭の飾り物を頂いた高校クラブの先輩のうち、伊藤美喜先輩の名前が抜け落ちておりました。申し訳ございませんでした。

 

さて、ユーモアたっぷりで、里山の大切さや都市と山村を結びつけることの大切さをお話くださった東京農大・宮林教授の話題提供に続き、第二部として、人気作家の三浦しをんさんと、宮林教授の対談を行いました。

 

以下、吉澤真理さんによる書き起こしを掲載します。

第二部 対談:「日本の森林の今と未来」 作家・三浦しをんさん×宮林茂幸教授】

三浦しをんさんご紹介(MC:水渡)
まほろ駅前多田便利軒』で直木賞ほか、『舟を編む』などの小説を書かれ、今回は映画『WOOD JOB!!』の原作『神去なあなあ日常』で、林業に携わる男性たちを描かれたという事でお話を伺いたく、いらして頂きました。
映画『WOOD JOB!!』は、『ウォーターボーイズ』『スィングガールズ』の矢口史靖監督(出演:染谷将太長澤まさみ伊藤英明ほか)で、原作本は、『神去なあなあ夜話』と合わせて後ろの方で販売しておりますので、後ほどお買い求め頂く事ができます。
(以下、宮=宮林教授 し=三浦しをんさん)

し:私は10歳までこの近所に住んでいました。当時はずっと外で遊んでいたな、と。イ

  ナゴを捕ったりしていましたよ。充分大人になってから、久しぶりにこの辺に来て

  小出さんのお母さんにバッタリ会ったら、「あら、しをんちゃん、大きくなったわ

  ねえ」と言われて、お小遣いを貰いましたね(笑)。


宮:この辺がそんなに自然に溢れていたなんてね。今は町がヒートアイランド化してい

  るから町の中の温度が下がらない。微生物が少なくなっているから、花粉を食べて

  くれない。子どもの頃に外あそびをたっぷりした人は、花粉症になり難いのではな

  いかな。


し:私は、見事に花粉症になりましたね。林業をやっている人にも花粉症は多いようで

  すよ。もう限度を超えているんでしょうね。ただ、子どもの頃、この辺の仙川など

  はとても汚かった。つりがね池で蛙の卵を捕って遊んでいましたが、昔はどぶ沼と

  いうか…。


(お客さんの1人より、「あそこは、昔は舟で通行していたそうですよ」との声)

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宮:また、どうして林業の本を書こうと思ったんですか。


し:父方の祖父が三重県の山奥、美杉村という所で林業をしていまして。遊びに行く

  と、その人が何かこんなプラプラしていていいのか、と思うような感じで(笑)。


宮:その当時はたぶん1本の杉の木が200万とか300万円くらいだったんじゃないかな。

  だから、1年に2本切っておけば、後は遊んで暮らしても….。今は価格が下がって

  いるから、売ってもあまりお金にならない。


し:だから、プラプラしていたんですね(笑)。三重県の尾鷲、松阪に取材に行ったん

  です。木の断面とか、とてもきれいで驚きました。板にすると、うっすらとピンク 

  がかっている。それに、映画で使った木に造り物があるのですが、美術さんはすご

  いですね。近くで見ても全くわからない。切り株も大木も。


宮:僕は矢口監督や主演の伊藤英明さんと対談をしたが、伊藤さんは実は高所恐怖症ら

  しいね。しかし、本当に面白い映画で、大学でワンコインで上映会をやろうかな。


し:でも、TV放映は難しいんですよ。なぜ難しいかは…(笑)、まあ、子どもに「あれ

  は何?」とか訊かれてしまうものとかが出て来るわけですよ。「そういうものなの

  よ」って答えて頂ければいいんですけどね。(笑)

 

宮:小説の題材を決めるヒントはどこに?


し:いや、気の向くままです。


宮:しをんさんの小説は、1回読むと癖になる。主人公がいつも一生懸命だし。
  そういう良さは、自然に逆らわない構造を持っている。人間の心にじわじわ来るも

  のを持っているから。


し:小さい頃から外で遊んでいたのと関係があるんですかね。先生はどうして林業の研

  究を?


宮:僕は長野県出身なんですよ。兄貴が2人いて、一番下。2番目と10歳離れていて、

  親爺を騙して東京へ来てみた。ところがその後、親爺から「もう故郷に帰って来な

  くていい」と。要するに、帰って来てももう食べてはいけないからですね。それ迄

  は、ダメになったら戻って百姓をやればいいと甘く考えていたのを、突然切り離さ

  れて、寂しかった。それがかえってきっかけになったのかもしれない。98歳で亡く

  なった父は、チェンソーを持ったままでしたからね。自分も定年退職したら山へ帰

  るのかもしれない。だから、そっちの方へ自然に引っ張られていった。
  そういえば、「森林リクレーション」という名前をつけたのは、僕なんですよ。そ

  ういう新しい見地が出来てきている。しをんさんはずっと東京で、都市暮らしです

  よね。


し:でも、近所をどてら着て歩いています(笑)。田舎っぽいですよ。


宮:はあ?(笑) でも、取材は徹底的にするんでしょ?


し:『GOOD JOB』の時は、本も読んだし尾鷲、松阪に全部で1週間くらいかな。主

  に、林業のおっちゃん達と飲んで来ただけのようなもの。でも、どんな感じで暮ら

  しているのかが、よくわかる。いちいちメモを取ると、相手も緊張するし。大体

  が、「飲もうぜー」という飲みニケーション。

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宮:新しい題材は?


し:新聞連載を書いているんですけど、植物学の研究をしている子達の話で、山の取材

  もしています。


宮:ぜひ、農大へ来て下さい。小出くんはせたがやトラスト協会にずっといたので、彼

  に訊いてもいい。

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し:ありがとうございます。実は私、足首が硬くて山登りに向いてないみたいで、山の

  取材はけっこう大変なんですよ。


宮:植物で言うと、3000年の歴史ある草花が『源氏物語』に出て来る。子供が泣くとこ

  れが良いとか、薬草や食べられる草花が多い。香度の研究もしています。古の植物

  がこの辺にも沢山あります。ところで、薪っていうのは、3年ものが一番良い。一

  家で山へ行って1日木を切って薪を作り、山に積んでおく。そして3年前のを背

  負って山を下りて来る。


し:ああ、干しておいたら軽くなるから….。


宮:そう。炭も重さが15分の1に軽くなって下りて来る。炭は800度になるから、すごい

  熱量を持って来る事になる。火持ちが良くてカロリーが高い。


し:昔の人って本当に頭がいいですね。


宮:日本人はそういう遺伝子を持っているからね。山でも、フィールドが東北、北海道

  など森林の造りが違うから面白いよ。文化の形態、木の切り方から違う。奥多摩

  急傾斜。越後の方は木を長く切るけど、下の方は雪によって曲がっている。だか

  ら、そのような環境で技術が生まれていく。だけど、木材は価格が十分の一になっ

  たので、丁寧に育てなくなった。


し:山が暗い。


宮:林業はきついから、若者が入りたがらない。でも、あの映画をきっかけに、女性も

  含めて林業に2000人近く入っている。


し:山に接するきっかけがあれば、向いている人は絶対いると思いました。


宮:あの映画、木を切るシーン、軽トラの運転なんかもうまかった。


し:あ、先生のネクタイに、くまもんが(笑)。熊本も林業が盛んですよね。


宮:熊本のように、いつ災害があるかわからないから、小出さんちに避難したら薪ス

  トーブがあるから、ご近所は安心なんじゃないかな。以前、行政に公園の備蓄に下

  に炭を入れてその上に水を貯蔵保管したら、という提案をしたのだけど実現してい

  ないな。山もそうだけど、常に備えが必要。お祭りの神楽、屋台は避難訓練の一種

  なんですよ。一番安全なお宮にあるでしょう。屋台が上がる所に逃げなさい、と

  言っておけば、子供達の目印になる。


し:そういう事なんですね。

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宮:それにしても、今日お会いしてわかったけれど、あなたは人に対して境が無い。良

  いですね。


し:ご近所づきあいが、まだあるから…..。


宮:この1月にお袋が103歳で亡くなって、兄貴がこれから家をどうするか、というタ

  イミングになっているんです。リンゴの木が20本くらいあって、学生と共に育てよ

  うかな。


し:奥の方は間伐も難しいから、そういう所に学生を送り込んで(笑)。


宮:危ない仕事ではあるけれど、面白いと思うんですよね。


し:林業の人は保険に入り難いんですって聞きました。


宮:ボランティア保険もありますが、チェンソーなんか使うと、グッと保険料が上がり

  ますからね。本当は、間伐してあげると良いんです。木にストレスを与えると、自

  然に間伐になる。手入れをすると、少なくなるという事。要は、間伐材をどんどん

  使ってもらえばいいんです。間伐材の机、椅子なんか作れますよ。今の間伐材って

  大きいので。小学校の机は今、便利だから支柱はステンレスを使うけど、天板だけ

  でも木で作ればいいんです。子供達のストレス解消にも良いですからね。


し:あ、机の表面をほじくって消しゴムのカスを詰めたり….(笑)。


宮:埼玉の中学校で校内暴力が酷かったんですが、廊下や横板を杉の間伐材に変えた

  ら、8割減ったという実例があります。群馬県の小学校では、インフルエンザは木

  造の校舎には少ない、という話も。お宅は、カーペット敷きですか?


し:いえ、フローリングです。


宮:それが、いい。絨毯にはダニがいる。子供が喘息になりますよ。年をとっても突

  然、喘息が出る。次は森林の帝王みたいな小説はどう?


し:帝王ですか?(笑)


宮:今、鹿や猪の被害が多いでしょう。小菅村に知り合いがジビエのレストランをオー

  プンさせるのだけど、鹿はミンチにしてハンバーグにする。小さな村に何頭の鹿が

  いると思います?1800頭ですよ。山が荒らされる。民宿や旅館にも分けて食べて貰

  わないと。


し:そうですね。迷惑だから鹿を殺す、ではなく、食べてあげないとね。


宮:僕は、キャッチ&リリースというのは好きじゃないんですよ。「いただきます」

  が、いい。長野の小さな村でも年間4000頭捕っている。


し:尾鷲では最初に植える苗を密集させるタイプでした。海までの距離が近く、林業

  とても大事な産業です。


宮:ギリギリのところまでミカンや茶を作っているよね。昔は木から江戸に色々な物が

  届いた。


し:あ、紀伊国屋文左衛門とか、そうですね。もう、皆で木を植えて、お寺でも法隆寺

  みたいな御殿のような建物を造れそうですね。でも、外材は遠くから船で運んで来

  るのに、そっちの方が国産より安いなんて、何かおかしいですね。


宮:円高だしね。海外はいちいち植えて大きくしたものではなく、天然ものを切って来

  るから安い。


し:外国の木をこっちの都合で切って送ってもらうのって….。


宮:最近は足りなくなり海外でも木を植え始めたが、日本の物より良くない。合板にし

  ないと持たなかったり、天井から落ちて来たり、白アリが食ったり。大量に持って

  来て大量に消費するならば、船で持って来た方が効率的。だから、個人で家を建て

  る時に、「工務店さん、ここの木を使って」と施主が言うのが大事。

 

MC:―何か、ご質問はありますか?(会場に向かって)


質1:「国産の木は安い」と、先日、専門家から聴いたのですが、もしそうならそれを

   知らない家を建てようとしている人に、情報を広めた方がいいと思いました。


宮:丸太でも計算すると国産で世界で最も安いのは杉。だけど、製造過程で人件費や運

  搬費がつくと、外国産とトントンになりますね。それでも、トントンなら、今は国

  産で家を造るチャンスだと思います。

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質2:日本の良い木が流通していないなら、海外の富裕層には売れないのですか?


宮:そう、可能性ありますね。去年の島根県全体の売り上げで、ベスト1は木材輸出

  で、相手は韓国でした。


し:そういえば、木造住宅ってあらゆる国にあるものじゃないですよね。内装はともか

  くとしても。


宮:そうなんです。韓国は貴重ですね。あそこは教育国なので、檜は子供の脳にも良い

  というアピールもあるのかなあ。木材だけでなく、国産の果物、特に栗や桃は抜群

  に日本の評価が高いですよ。こっちから出したら、1個2000円でも売れる。

 

MC:大変楽しいお二人のお話で、あっという間にお時間となってしまいました。三浦さ

  ん、宮林教授、本日は本当にありがとうございました。ご来場の皆様、ありがとう

  ございました。最後に、薪まきカフェ・オーナーの小出より、皆様にご挨拶させて

  頂きます。

 

 

―小出オーナー挨拶
今までは世田谷区の外郭団体のせたがやトラストまちづくり(旧:せたがやトラスト協会)で働いていたのですが、もっと川上と川下の連携をやりたい、と思うようになりました。問題意識を世田谷区内だけではなく、川上にも広げ、制約を外してNPOとしてやっていきたい、と。
もっと木を使わなければならない、森を若返りさせ、ひこばえを育てなければならない。年を取ると汗もかかなくなりますよね。木も同じです。老齢で大木となったコナラやクヌギは樹皮も分厚くなってカミキリムシも嚙みきれないので樹液を出さない。

東北地震のあった3/11の時から、薪が注目され始めました。この近所だけでも25,6軒が薪ストーブを使っています。増えているんです。

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生産者が薪をユーザーに届ける。NPOが3割、生産者が7割の利益を得るなどして、生産者がやる気を出してくれる仕組み作りをしていきたい。それが、宮林先生に理事長をお願いして、自分が副代表を務めているNPO法人ナチュラルリングトラストが取り組んでいる「薪まきネット」の「薪バンク」というプロジェクトを作った理由で、お手元のパンフレットに詳しい事が書いてありますので、どうぞお読みください。

元々、この場所は2世帯住宅で、下には両親が暮らしていました。2人共が亡くなった後は、物置になっていました。当初はNPOの事務所にしようかと思ったのですが、そうすると目的がある人しか来ないから、もっといろんな人が来て、里山の問題を知るきっかけや、地域の方々が交流する場になるといいな、と考えて、昨年7月からゆっくり作って来ました。
自分が子供の頃、ここの路地もいつも子供達が遊んでいて、隣の人が勝手に家に入って来て冷蔵庫を開けて飲み食いしていました。そんな顔の見える関係性の中で、この地域で生きていけるといいな、と思いました。皆さんにそういう場にして貰えると良いのですが。

この檜の丸太からは、カミキリムシが次々に出て来ますが、木をたくさん使ってこだわりました。エネルギーとしての薪ストーブもそうです。漆喰壁は、子供達のワークショップにして、塗りました。駐車場はコンクリートを剥がして、ガーデンを作りました。もしご近所にガーデニング好きな方がいらしたら、コミュニティガーデンにしますので、どうぞ参加してください。

そんな思いで、多くの人達が協力してくれて、1年弱かけて今日にこぎつけました。人生一度きりなので、思ったことは、やっぱり実行しないと悔いが残るので、やって
良かったと思っています。
飲食業の経験はゼロですが、ゆっくり育てていければと。座卓も椅子も世田谷で切られた物で、材料にこだわりがあります。今後共、皆さんに育てて頂きたいです。講座などいろんな使い方の提案もください。よろしくお願いいたします。

                   了

 

狭いお店のため、定員を先着30名とさせて頂きましたが、もっと多くの方に聞いて頂きたかった大変面白い内容でした。今回のイベント、三浦さんと宮林教授は初対面でしたが、とても感心したことに、三浦しをんさんは、イベントの登壇を決めた後、宮林教授の本を3冊購入し、事前に読んでおられました。当日、宮林教授の本を持参し、会場の方にも紹介されており、さすが人気作家だけあると思いました。また、今回は「神去なあなあ日常」と「神去なあなあ夜話」の文庫本をそれぞれ20冊をあらかじめ購入し、イベント終了後に販売させて頂きましたが、40冊にすべてサインを頂きました。

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三浦しをんさん、宮林教授、お忙しい中、ともに今回は開店祝いということでノーギャラで登壇いただきました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。

 

都会に住んでいる私たちが、もっと日本の森林のことに思いを馳せ、次世代に健康な森林を引き継いでいくことの大切さを、この薪まきカフェではコンセプトに伝えていきたいと強く思いました。

 

イベント終了後は、本日、お手伝い頂いたボランティアスタッフの皆様と、開店するまでのご協力の感謝と、薪まきカフェの前途を祝し、打上げをさせて頂きました。

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